「のしろ日本語学習会」について

                                                のしろ日本語学習会代表 北川 裕子

                                                         文化庁地域日本語教育コーディネーター研修修了(平成22年度)

                                                         秋田県生涯学習指導員,地域外国人相談員,秋田県子育てサポーター

                                                         学校加配日本語指導者・中国残留邦人自立支援通訳者

 

 秋田県能代市は秋田県北西部に位置し、世界自然遺産・白神山地と東西に流れる米代川の恵みを受け、江戸時代から人々を守ってきた広大な防砂林「風の松原」、夕日を鮮やかに映し出す日本海に囲まれた町です。(写真は、能代市の能代公園から、米代川越しに見る白神山地です。2018年11月5日撮影)

 人口約55,000人のうち、外国人登録者数は260人(平成23年度)で、その8割が日本人の配偶者です。出身は、フィリピン・中国・韓国・インドネシア・パキスタン・ロシアなど、民族・言語・学歴・学習経験・職歴等は、実に多種多様です。

 「のしろ日本語学習会」は平成3年に始まった地域の日本語教室です。20年以上前、外国人住民と外国人との接触経験がない日本人との間で、文化や習慣の違いによるトラブルが生じたり、日本人の差別意識の表れともとれる場面に出会うことがあり、住民の間には「壁」がありました。そんな折、私が能代市から中国残留帰国邦人家族に対する日本語指導の依頼を受け、そのことをきっかけに、日本に定住・帰化する外国人と日本人の多文化共生意識を見据えた日本語教室を立ち上げようと決心しました。当初は協力者も少なく大変でしたが、「国際理解は結局人間理解だ」という気持ちで続けてきました。

 今は能代市からの委託で教室が開催できるようになり、周辺町村からも日本語指導を任されています。複数の地域で日本語支援をするメリットは、学習する場所は違っても、交流活動で顔を合わせ一緒に楽しむ機会を共有することで、受講生同志のネットワークが作れることです。

 今までの実績が信頼につながり、学校教育委員会や行政からも地域の日本語教室の拠点として相談を受けるなど評価をもらえるようになりました。

 現在ボランティアは約20名。高校生から主婦、退職者、会社員など年齢も背景も様々な市民の方に協力いただき、日本語指導だけでなく、保育・広報・生活相談・子どもたちに対する学習指導など、それぞれの得意分野を生かした協力をいただき活動しています。 

 

 「のしろ日本語学習会」は能代市公民館で週2回、初級レベルから「話す・読む・聞く・書く」の4技能を含めた指導を行っています。

 外国人が多い都市と違い、地方では行政の通訳・多言語による対応は難しく、外国人住民が生活していくためには、自立して必要な情報を自ら得てもらうことは重要な意味を持ちます。

 教室に通う学習者が望むのは、日本語を学ぶことと同時に「自立した生活」を送ることなのです。教室からは、能代市の通訳や翻訳のお手伝いをする生徒・卒業生もいて、住民として教室をや地域を支える側に立ってくれています。

 能代は、大学も国際交流協会もない町です。そのような町で日本語教室を実践していく上で、日本語支援者自身の日本語指導や国際理解教育の学びが必要になります。私自身、文化庁の日本語教育コーディネーター研修を受講したり、「生活者としての外国人」のための日本語教育事業に採択されたことで、最前線の専門家を能代に招いたりして、様々な学びを得ることができました。このことは日本語教室にも有益であると同時に、町全体が多文化共生について考える機会にもなりました。地方の町だからこそ必要な事業であり、機会だったと思っています。 

地域に必要とされる教室になるために

 能代市在住の外国人は、日本でこどもを産み育てる人が多いのですが,日本語が理解できない外国人の子育てには困難が伴います。様々な場面で日本語が必要なのですが、小さい子どもがいる母親は夜間の教室に通いにくいことが分かりました。そこで、昼の時間に育児支援付きの教室を始めました。お母さんが教室で日本語を学習している間、子育てサポータ-が子どもの相手をするのです。

 「母親は言葉より育児を優先すべき」という意見も多かったのですが、支援を始めてから「国が違えば子育ての仕方も違う」ということが分かってきましたし、予防接種や健診などの情報が十分に得られなかったり、日本語が未熟な母親から言葉を教わったため発音がしっかりせず学習障害と誤解されるケースもあったことから、今後一層の支援の必要性を感じています。

 この取組に対して、平成22年には内閣府から「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」が授与されました。これは大きな励みになりました。 

 

 この教室を作ることになったとき、強く意識したことがあります。それは、外国人住民への日本語支援と同時に、日本人住民が国際化を身近なものとして一緒になって関われる「まちづくり」を起点とした教室を目指そうということでした。

 外国人と日本人は言葉はもちろん、これまで接してきた文化や習慣が違います。言葉はその国の文化や習慣があってこそ成り立つもので、日本語という言葉だけを教えても日本の社会や文化、考え方を理解してもらうのは難しい。私たちは、ともに能代に暮らす住民として、日本の,能代の文化や習慣を様々な体験を通して伝えたいと考えています。

 花見・バス旅行・茶会・書道・生け花・盆踊り・日本料理教室・忘年会などの行事を通じた地域の文化体験や交流は、外国人住民にとって新鮮な体験となると同時に、日本人の側にも能代で生きる外国人住民が一人の人間であることを肌で感じる機会となり、理解者・支援者を増やすことにつながっています。このような行事は能代市民の皆さんの協力、行政の力添えがあってこそできることです。

 このような活動を通して、日本人も外国人も一緒に能代のまちづくりに関わっていく中で、皆が能代の文化,能代の子供たちを大切に思う気持ちを持ち、互いに支え合えるようになることを願っています。そして、日本語教室が皆の居場所・学びの場となり、地域を支えるハブとして機能していけるよう、これからも皆さんと活動を続けていこうと思っています。